アナログシンセの「機嫌」
あるところで冨田勲先生がゲスト出演したTV番組(2012年)を見ました。シンセプログラマーの松武秀樹さんもご一緒です。なんと豪華な師弟共演でしょうか。
音楽スタジオでの収録でしたが、それもそのはず松武さん所有のmoogモジュラーシステム(通称「箪笥」)が設置されています。moogで音作りの基礎や、色々な音を作って鳴らすというのが番組の企画だったのです。
まあとにかく、あの箪笥moogの前にこのお二人が並んでいるのって凄い光景ですわ。シンセサイズの世界最強エキスパートコンビですから。
ところが……これが音を作ってみると、結構上手くいかない。💧 松武さんがパッチした音を冨田先生が「それはもうちょっと」なんて微調整するんだけど、なぜか決まらなかったりする。
冨田先生いわく、アナログシンセには「機嫌」があって、機嫌が悪いとなぜか作りたい音に絶対ならない時がある。「締め切り前にこうなっちゃうと困るんだよなー」、とのことでした。湿度温度の関係かもはっきりしないし明確な理由はわからないそうです。隣で松武さんも頷かれていたような。
松武さんのmoogは確かに70年代ビンテージですが、たぶん世界で最もメンテされて状態の良いシステムだと思うので、それでさえそうなるとは、全世界共通の悩みなんでしょうね。
実は他の番組でも(これはかなり前)冨田先生は自宅スタジオでmoogを前に似た内容をボヤかれてました。
(多重録音で曲を作っているので、次の日になると全く同じ設定でも音が変わっていて、本当に困る、とのこと)
弦央昭良のささやかな仕事場にあるのは、moogといってもユーロラックサイズのMother-32だけど、実はこいつも全く同じです。次の日になると音が違う。箪笥より回路的には安定しているはずですが、まあアナログシンセの特性なんでしょうね。逆に、今の時代に面白いと思っています、安定が欲しいならデジタルシンセを使えば良いわけで。ギターと同じ「生楽器」なんですよ。音色も一期一会。
いや、それにしても冨田先生と松武さんが悩みながらシンセサイズしているのを見て、その空気感に僭越ながら非常に親近感が……。😋 神様といえど、試行錯誤なんですね。厳しくも楽しいアナログシンセ道。